ご挨拶

greeting

 電子励起状態分子はエネルギーや物質変換、光機能発現等において重要な役割を果たしています。これら励起分子の諸過程を対象とする光化学関連研究分野において、日本の研究者は国際的にも先導的役割を果たし、励起分子素過程、光物質合成、光機能分子、光触媒、太陽電池、光物質プロセッシングなど、基礎から応用に至る広範な分野の発展に多大な貢献を行ってきました。

 しかし光機能発現やエネルギー・物質変換に応用が想定される比較的大きな多原子分子では、
(1)高位電子状態が生成しても迅速に内部変換により最低励起状態に緩和し(Kasha則)、
(2)集合体系において多くの励起分子が生成しても分子間の迅速な消滅過程(励起子annihilation)により最終的にはごく少数の励起分子しか残らないなど、光量子や光強度等の光エネルギー利用には大きな制限が存在します。更に、
(3)通常の光吸収で到達できる電子状態は主に一光子許容なものに限られており、分子が本来有する多様な電子励起状態を有効に利用することも困難でした。

 光利用に対するこれらの制限の超克は、多様な新規光機能物質系の継続的開発や喫緊の課題とされる光物質変換・光エネルギー利用の革新的発展のためにも重要な基礎的課題ですが、今まではこれらの解決は非常に困難なものと考えられてきました。しかし最近、本領域の代表者や参画者の研究を含め、多光子吸収や多重励起を利用した高位・禁制電子状態における選択的・特異的光反応、高位電子励起状態からの複数励起子の生成、局所場等の利用による摂動を超えた新奇電子状態作成、複数光子によって誘起される多重スイッチ過程や集合体系における多数励起分子の協同的・階層的光力学応答など、これらの三種の制限を超える新現象が報告されだしています。

 このような背景と研究動向に基づき、分子系の電子励起状態利用に関わる上記の制限を超克する手法として、多重・多光子励起、電子状態変調、分子協調反応開発、集合体設計等の方法を用い、従来の"一光子吸収と一分子応答"を超える "複合励起と応答"の学理構築と応用を行い、光子有効利用を可能とする新規複合励起応答分子系の構築を目的とする研究提案を行い、本年(平成26年)に採択いただきました。

 この目標の達成のために、以下の3つの研究項目(班)を設定しました。班内・班間の研究者間で、成功例のみならず失敗例も迅速に共有しながら効果的な協同研究を行い、目標の達成を目指します。

 A01 複合励起に基づく高位電子励起状態へのアプローチ・機構解明
 A02 多重分子協調による高次複合光応答分子システムの構築
 A03 メゾ-マクロスコピック複合光応答分子集合系の機能開拓

 これらの研究を通して、光子有効利用に対するパラダイムシフトを行い、短期的な光化学分野における国際的優位性の継続のみならず、本研究で得られる学理を応用することにより、中長期的にも我が国の多くの研究者が、分子系の光利用関連諸課題への新たな挑戦を行い、光エネルギー・物質変換等の人類共通の課題解決に対しても先導的な役割を継続・発展させることを期待しています。

 広範な領域の研究者、特に次代を担う若手の方の多数の参加を望んでいます。ともに研究を楽しみながら一生懸命努力し、新たな領域の構築に邁進したいと思います。

領域代表 宮坂 博 (大阪大学大学院基礎工学研究科)